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#2「君の名は希望」の歌詞から広がる世界(4500字)

 

 

こんばんは。

 

久しぶりの更新です。

 

 

今回は、乃木坂46の楽曲「君の名は希望」の歌詞に込められたものを

 

「自我の目覚め」という観点から見ていきたいと思います。

 

 

安心してください。#1の「ワタボコリ」の歌詞考察より

 

小難しくなることはないですし、 長くはなりません。

 

 

最初に断っておきたいのは、

 

こちらも参考にした文章が存在します。

 

 

 

その話を先にすると、2, 3年前に

 

朝日新聞乃木坂46のコラボサイト「乃木坂と、まなぶ」で

 

林修先生による『君の名は希望』の歌詞解説動画を

 

偶然みつけて視聴したことがありました。

 

20分程度の動画でしたが、

 

林先生がいかに偉大な現代文講師であるかが

 

ひしひしと伝わってきた講義でした。

 

残念なことに、つい先日 死力を尽くしてその動画を

 

探したのですが、見つけることはできませんでした。。。

 

ですので、このブログにおいて、講義をみた当時の記憶を

 

可能な限り引っ張りだして、

 

ここに“林先生の講義で出た言葉”として残したいと思います。

 

 

 

ってことで、まずは歌詞を見ることから

 

始めていきましょう。

 

________________________

 

君の名は希望

詞 秋元 康

曲 杉山 勝彦

 

 

僕が君を初めて意識したのは

去年の6月 夏の服に着替えた頃

 

転がってきたボールを無視してたら

僕が拾うまで こっちを見て待っていた

 

透明人間 そう呼ばれてた

僕の存在 気づいてくれたんだ

 

厚い雲の隙間に 光が射して

グラウンドの上 僕にちゃんと影ができた

 

いつの日からか 孤独に慣れていたけど

僕が拒否してた この世界は美しい

 

こんなに誰かを恋しくなる 自分がいたなんて

想像もできなかったこと

 

未来はいつだって新たなときめきと出会いの場

君の名前は“希望”と 今 知った

 

わざと遠い場所から 君を眺めた

だけど時々 その姿を見失った

 

24時間 心が空っぽで

僕は一人では 生きられなくなったんだ

 

孤独より居心地がいい

愛のそばで 幸せを感じた

 

人の群れに逃げ込み 紛れてても

人生の意味を 誰も教えてくれないだろう

 

悲しみの雨 打たれて足下を見た

土のその上に そう確かに僕はいた

 

こんなに心が切なくなる 恋ってあるんだね

キラキラと輝いている

 

おんなじ今日だって 僕らの足跡は続いてる

君の名前は“希望”と 今 知った

 

もし君が振り向かなくても

その微笑みを 僕は忘れない

 

どんな時も君がいることを信じて

まっすぐ 歩いて行こう

 

なんにも分かっていないんだ 自分のことなんて

真実の叫びを聞こう  さあ

 

こんなに誰かを恋しくなる

自分がいたなんて 想像もできなかったこと

 

未来はいつだって新たなときめきと出会いの場

君の名前は“希望”と 今 知った

 

希望とは 明日の空

 

 

 

________________________

 

 

乃木坂メンバー9人を前に、講義を始めるやいなや開口一番

「この歌が表現している世界ってちゃんと分かってますか?」

「いやー、この曲を作られた秋元さん、相当いろんな仕掛けしてますよ」

 

と林先生。

 

「歌っている本人たちに向かって発せられたこの挑戦的な言葉に、メンバーの顔は引き締まった。(中略) 林さんは軽快なリズムでポイントとなる歌詞を挙げ、説明を加えていく。」

朝日新聞デジタル記事より一部抜粋)

 

 

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君の名は希望」の歌詞を解説する林修先生

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林先生の授業を受けた乃木坂メンバーたち


 

 歌詞は、「僕」と「君」という2人の人物の登場から始まる。

 

僕が君を初めて 意識したのは

去年の6月 夏の服に着替えた頃

 

小説などでも稀に見る表現だが、

 

「服を着替える」という行為は、

 

身にまとっているものを脱ぎ捨てる、という

 

行為そのものの性質から

 

その行為者の“心情や心象風景の変化を暗示する”ときに

 

用いられることがある。つまり、

 

「服を着替える」前と後では、主語となる人物の

 

心情に変化があることがある。

 

林先生は、

「最初に出てくる『着替えた』は、これからの主人公の変化を暗示する言葉」だと述べている。

 

 

透明人間 そう呼ばれてた

僕の存在 気づいてくれたんだ

厚い雲の隙間に 光が射して

グラウンドの上 僕にちゃんと影ができた

 

 

「孤独」のその中にいた「僕」。

 

そこに「君」という存在が、登場したことによって

 

「僕」にも変化が生じる。

 

 

「透明人間」だった自分に「影ができた」のだ。

 

 

透明人間は目に見えないのだから、当然 影ができることもない。

 

しかし、

「厚い雲の隙間」から射した「光」の存在によって、

 

「僕」は透明人間ではなく、普通の人間としての自分を手にする。

 

自分というものの存在がはっきりしてきたのだ。

 

 

 

いつの日からか 孤独に慣れていたけど

僕が拒否してた この世界は美しい

 

 

 

孤独であることに慣れていた「僕」は、

 

孤独を受け入れ、逆に「世界」を拒否し続けていた。

 

しかし「君」との出会いによって、

 

そんな「世界」が初めて“美しい”と思えた。

 

 

 

こんなに誰かを恋しくなる 自分がいたなんて

想像もできなかったこと

未来はいつだって新たなときめきと出会いの場

君の名前は"希望"と 今 知った

 

孤独の奥底にいた自分が、

 

あんなに外の世界を否定してきた自分が、今、

 

こんなにも誰かを恋しく思っている、つまり恋をしている。

 

わずか2行のあいだに出てくる単語「未来」「君」「希望」の

 

意味について、林先生は以下のように語った。

 

「人間はね、“今日がつらい”っていうのは、意外と耐えられるんですよ。(中略) だけど、“明日が暗い”っていうのは、つらいんです。(中略) 彼女との関係の中に自分を見出した。「人間」というものになった。(中略) 彼女が振り向かなくても大丈夫だと。これ、ほんとは振り向いて欲しいんだけどね。でも、なんでこんなふうに耐えていけるかってのは、自分の世界が広がっていく、『明日』に向かって自分は生きていける、っていう『希望』があるから。だから、今日の切なさは耐えられる。」

 

 

 

林先生の言葉をまとめると、

 

「僕」は、孤独のなかにいた頃には無かった、

 

「明日」という“希望”を見つけることができた。

 

そしてそれは、「君」という存在との関係のなかに

 

見出したものであった。ということだろうか。

 

(実際、歌詞の最後には「希望とは、明日の空」と言っている。)

 

 

 

林先生は、「人間」における「他者とのつながり」についても

 

以下のように述べている。

 

「もともと『人間(にんげん)』という言葉はなかったんです。もともとあったのは、『人間(じんかん)』という言葉です。『じんかん』っていうのは、世間、世の中。それがなんで『にんげん』になったと思います?(中略) 人っていうのは『誰と一緒にいるか』、逆に言うと『誰と一緒にいないか』。人との関係、人との間柄が、その人そのものになる。だから、それに気づいた誰かが、それまで『じんかん』って世の中を表していた言葉を、人そのものを表す『にんげん』と読み替えた奴がいると...」

 

人間自体、根源的に他者との関係によって、成り立っているものである。

 

 

 

ここでひとつ僕のなかで疑問が生じた。

 

「歌詞中の『君』っていうのは、本当に自分でない“他者”のことを指しているのか?」

 

タイトルからして「君=希望」という構図が前提としてある。

 

ここで「君」を「希望」という抽象名詞とイコールなものとすることによって、「君」が具体的な存在ではなく、むしろ曖昧を帯びた抽象的概念として機能しているのではないか。歌詞が一貫して曖昧なのも、そこに多層性をもたせることに真意があるからなのかもしれない。

 

 

ここでは長くなるので書かないが、歌詞中の「君」というのは、実は「鏡の中に映る自分」で、その鏡像としての自分の出会いによって自己を形成していく「僕」を描いている、という解釈を、(哲学者ラカンの提唱した“鏡像段階”の概念を引用しつつ)展開している人もいた。そちらの解釈も興味深いのでぜひ見て欲しい。

 

乃木坂46「君の名は希望」歌詞の意味考察 ラカンの鏡像段階で読み解く「君の名は希望」 | アイドルを科学する。

 

 

 

林先生の講義に沿って記すという、当初のスタイルに戻す。

 

 

わざと遠い場所から 君を眺めた

だけど時々 その姿を見失った

 

 

ここも「君」がなにを表すと解釈するかで、

 

意味合いが大きく違ってくる。

 

 

2番の歌詞については、林先生はの講義では

 

あまり触れられていなかったので、

 

ここでもあまり触れないことにするが、

 

「君」の存在を時に見失ってしまう「僕」が、

 

悲しみに暮れつつも、

 

「土のその上に確かに」存在する自分を見つける姿が描かれている。

 

 

おんなじ今日だって

僕らの足跡は続いてる

 

 

始めは「僕」という一人称だったものが、

 

ここにきて「僕ら」に変わっている。

 

 

孤独から脱却し、ひとりの「人間」として生きるようになった「僕」だからこそ

 

 

他者と関わりをもった状態でしか使えない「僕ら」という人称を

 

 

用いたのである。

 

 

 

 

なんにも分かっていないんだ 自分のことなんて

真実の叫びを聞こう

 

 

 

「『自分って自分のことが何一つ分かっていなかったんだ』

 

 

  と気づくことが、自分自身が変わるための第一歩」

 

 

と語る林先生。「僕」は、今まさに変わろうとしている。

 

 

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「今でしょ。」

 

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力説する林先生



 

孤独の奥底にいた「僕」。それを救った「君」という存在。

 

この楽曲のテーマは「人間の孤独な心象風景とその救済」というところにある。

 

 

 

 

秋元康氏は、2018年4月22日の生駒里奈卒業コンサートで、デビューから本作まで5作連続でセンターポジションを担い心身ともに疲れ果てているだろう生駒を乃木坂の希望であるとイメージして書いたと明かした。

 

 

 

 

さらに、この歌詞の主テーマには、作曲家の杉山勝彦氏が関係する背景があると考察している人もいる。これもかなり興味深かった。

 

乃木坂の風 21Jun13 ~ 「君の名は希望」を作ったのは誰か - ジャン・アレチボルトの冒険 

 

 

 

 

 

さまざまな解釈がある楽曲だが、

 

 

「今後の乃木坂46を定義づけていった曲」と称されるだけあって

 

 

誰もが認める名曲であると思う。

 

 

 

 

 

 

#1の「ワタボコリ」に引き続き、歌詞の考察を記したが、

 

 

やはりこういう視点でアイドルの楽曲を楽しむのも面白い。

 

 

 

いろいろな人の解釈をきいても楽しいし、

 

なにより 聴くたびに“新たな発見”があるのが楽しい。

 

 

 

  

これだから、歌詞考察はやめられない。

 

 

 

 

 

 

(参考)

 

朝日新聞デジタル:(乃木坂が聞く!番外編)林修先生、歌詞解説の特別授業 - 乃木坂と、まなぶ 

 

乃木坂と、まなぶ ~ 乃木坂46×朝日新聞 - 教育:朝日新聞デジタル

  

 

乃木坂46の公式サイトでも、しっかりアナウンスされていました。

あわせてご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

eppy(2019/8/11 3:28)